通訳者、妻、母として奮闘している日常をドキュメンタリーに収めていただきました
アメリカ仕込みのステーキ好き
同窓会広報担当者(以下「WM」);
お忙しいところインタビューをお引き受けくださり、本当にありがとうございます!!
先日の「情熱大陸」、当日朝に同窓会公式facebookでも告知させていただきました。多くの同窓生が胸を熱くしながら放送を見ていたと思います。
橋本さん;
同窓生の皆さんをはじめ、全国で多くの方々が観て下さったようです。
日曜の夜にもかかわらず、見守って下さった皆さんに心から感謝申し上げます。ありがとうございます!
神戸高校卒業後は東京に移り、大学卒業後、都内でメーカーに勤務をしました。丸9年勤めましたが、32歳の春から通訳者としての道を歩み始め、はや10年が経ちました。
様々な国や文化を背景とする人々の言葉を預かり、通訳させて頂くことは光栄であり、楽しみでもあり、また大変にデリケートな業務であると感じています。
毎回、パーフェクトな通訳を目指して全力を尽くすものの、100点満点の自己評価を下せることはめったにありません。通訳本番の厳しさや自宅での勉強、家事・育児との両立、そんな四苦八苦の日常をドキュメンタリー番組に収めて頂きました。
200%の準備をして、120%の集中力で臨んでも、100点満点の通訳はなかなかできません
WM;
昨年、ピコ太郎さんが外国人特派員協会で記者会見をされましたよね。私も拝見していました。
ピコ太郎さんの、「ありが玉置浩二(※注 「ありがたい」と歌手「玉置浩二さん」をつなげている)、「驚き・桃の木・20世紀」、「ぐん、ぐん、ぐ~~んと反ったんですね」など、独特の言い回しや、日本語でこそ意味が分かる韻を用いた表現などがポンポンと飛び出していましたね。
その一つひとつを、会見のテンポを崩すことなく訳し続けられる橋本さんに対し、記者から「ピコ太郎さんの通訳は難しくないですか?」と橋本さんに対して質問が投げかけられたり、記者たちから橋本さんに対して拍手が送られたりする等、いつもの特派員協会の会見とは一味も二味も違った会見になっていたのが印象的でした。
当時は橋本さんが同窓生だとは存じ上げませんでしたが、「この通訳者の方、すごいなぁ」と思っていたのです。
あとから橋本さんが同窓生だと知って、今度は私が「驚き・桃の木・20世紀」でしたよ!(笑)
橋本さん;
いえ、ポンポンと表現が飛び出していたというよりは、良い訳が出てこなくてウンウン苦闘していたという方が正確な描写かと思います。ちなみにあの時、「ありが玉置浩二」はなんとか訳せたのですが、「驚き・桃の木・20世紀」は最後まで訳すことができませんでした。
通訳とは、ある言語を別の言語へと置き換える作業ですが、言葉の変換だけではなく文化的背景や行間の意図をも読みとらなければメッセージは伝わりません。その上さらに一発ギャグが出てくると、正直途方に暮れてしまうこともあります。(ところで「途方に暮れる」って英語で何て言うんでしょう・・という具合に、いつも英語と日本語の入れ替え運動を頭の中で行なっていたりします。)スピードが命の通訳現場です。完璧を目指しますが、制限時間内で最善と思われる訳を即座に選ばなくてはなりません。あとからゆっくり辞書やインターネットで調べればもっと適した良い訳がみつかるかもしれないですけれど、通訳の現場はそれが許されないですからね。200%の準備をして、120%の集中力で臨んでも、100点満点の通訳はなかなかできません。
一度その会見なりスピーチが始まったら、それ以降は「タイム」を懇願することはできません。10-20秒ほどのわずかな時間で言葉の引き出しの中を必死にかき回し、なんとか訳を口にする。と同時に、次の発言を漏らさず聞き取る、という作業の連続です。
知らない言葉や、不意打ちの脱線、予定外の議論などが容赦なく飛んできますので、それらの言葉を漏らさず受け止めて、意味の通じる、説得力のある、言葉に変換していくことは何度やっても難しいなと感じます。
アメリカから帰国後の私は、「ガリ勉」でした
小学校3年生、サンフランシスコ自宅にて大好物のスイカと
WM;
橋本さんはアメリカ・ヒューストン生まれですよね。
アメリカで幼少期を過ごされて、高校は“自由と規律“を重んじる保守的な(?)神戸高校にご入学(笑)。
どのような高校生活を送られていたのか気になります。
橋本さん;
父親の仕事の関係でテキサス州ヒューストンで生まれました。
1-6歳は東京都町田市、6-11歳はカリフォルニア州サンフランシスコで小学校時代を過ごし、神戸に住んだのは11-18歳の間でした。アメリカに住んでいた合計6年間以外は、すべて日本で過ごしていました。
日本の小学校を出ていないので、神戸に来てからは勉強が大変でした。
英語の授業だけが唯一得意な科目で、あとはすべての科目で何らかのハンデを背負いつつ、必死で勉強していたことを思い出します。勉強は嫌いではありませんでした。いえ、むしろ「ガリ勉」だったと思います(笑)
今はなくなってしまいましたが、阪急御影駅の近くにあった大道学園という現役予備校にも通っていたので忙しくしていました。
バドミントン部に所属し、仲間と一緒に毎日のように羽打ちの練習や基礎トレーニングをこなしていました。
神戸高校前の地獄坂や階段を利用したトレーニング、六甲までの往復ランニングなど、きついメニューもありましたが、難しいことにも取り組み、それをこなした後の達成感は何とも気持ちのいいものだと教えてもらった気がします。
「質素剛健」という言葉は今の私の生活に通じるスローガンとなっています。通訳の事前勉強や本番のスケジュールがいかに立て込んでいたとしても、毎日できる限り身体を動かし、心身共に健康でありたいと思っています。
体調を万全に整えて本番に備えることは、前提条件のようなものです
伊達公子氏の記者会見(外国人特派員協会)にて
WM;
通訳者になるために必要な心がまえや勉強方法等、通訳者を目指している後輩たちに、なにかアドバイスをいただけますか。
「売れっ子同時通訳者」として、この手の話はいろいろなところで語り尽くされていることだと思いますが・・。
後輩たちも知りたいと思いますので、今一度、こちらで教えていただければ。
橋本さん;
「通訳に向いている人はどのような人か?」という質問をよく頂きます。
人と接することが好きで、言葉に敏感で、好奇心が旺盛で、国内外問わず毎日違う場所に行くことが苦でなければ、通訳の仕事に向いているかもしれません。帰国子女である必要はありませんし、英語ネイティブの発音も必須ではありません。年齢も全く関係がありません。(ただし、集中力と瞬発力が必要です)。
通訳の仕事は勉強の連続です。仕事の依頼を受けると、その時点から本番に向けた勉強が始まります。
スピーカーの経歴を調べ、専門用語を一つずつ丁寧に書き出し、受験生のように新しい分野の知識を読み込んでいきます。
英語と日本語が対になった単語帳を作成し、体調を万全に整え、本番を迎えます。
風邪などひいて声質が変わってしまっては大変ですので、マスクを常に持ち歩き、マヌカハニーを舐めたり、リステリンでうがいをしたり、毎日、できる限り丁寧にケアを重ねるようにしています。
WM;
たしかに、喉をいためて声がでなくなってしまうと、通訳ができませんよね。「情熱大陸」では、服装や装飾品について橋本さんが語られているくだりもありましたね。
橋本さん;
本番当日の服装は、いつも注意深く選ぶようにしています。会の趣旨はもちろんのこと、会場の場所、温度、同席する方々の服装まで予想して、自分はどういう格好をしていけば全体の仕事がスムーズに進むか、周囲に配慮のある服装になるか、といったことを考えています。本番はアドレナリンが出て、集中力もピークになりますから、パリッとした一張羅のスーツも、仕事が終わると汗だくになっているんですよ。帰宅するとクリーニング屋さんに直行することがしばしばです。
“Do your best. Be professional. Make history!”
WM;毎日「言葉」と向き合っておられる橋本さんの座右の銘を教えていただけますか。
橋本さん;
通訳をお届けする中で、多くの魅力的な方々の名言を聴かせて頂き、また通訳者である私の口からもその言葉を発する機会を頂いております。その中で、特に感銘を受け、心に残った言葉がひとつあります。
それは、ある米国企業の社長さんが社員を鼓舞するためにおっしゃった言葉です。
“Do your best. Be professional. Make history!”
大変月並みですが、私はこれを
「最善を尽くせ。プロであれ。そして、歴史をつくれ!」と、訳させて頂きました。
私自身もこの言葉を胸に、日々過ごしています。
是非 日常生活にも「通訳」を取り入れてみてください
バイリンガルMCとして、英語と日本語を駆使し
シンポジウムの司会を担当することも
WM;
最後になりましたが、このインタビューコーナーをご覧のすべての同窓生に、ひとことお願いします。
橋本さん;
神戸は世界に開かれた美しい国際都市のひとつですが、神戸に限らず、このご時世、グローバルコミュニティーの一員として世界とつながる機会は自由に開かれていると思います。皆さんの中には、外国人と交流する機会が多い方もいらっしゃるのではないでしょうか。
通訳というコミュニケーション促進法は、何もプロに限られた「仕事」ではありません。また、外国語をネイティブのように話さなければならない、という決まりがあるわけでもありません。異文化を理解したいという心や、外国語を話したいという興味関心さえあれば、通訳は、お互いの理解を深めるための、ひとつのコミュニケーションのツールになります。
日常生活の中で外国人のお友達とカジュアルに、あるいは仕事の場面で専門用語なども使いながら、通訳を取り入れてみるのもいいかもしれませんね。多言語でのコミュニケーションを楽しんでいただき、有意義な異文化交流へとつなげていただけたらと思います。
WM;
ありがとうございました!今後のご活躍も同窓生一同応援しています!