羽生選手の試合中継は観られません(笑)
―このたびはお忙しいところインタビューをお引き受けくださりまして、ありがとうございます。昨日までの西日本豪雨では、東灘区内でも土砂崩れが発生し複数の地区に避難指示が出されました。弓弦羽神社は被害はありませんでしたか。(※取材日は2018.7.9)
はい、被害はありませんでした。こちらの神社では、木が多いので、豪雨よりも強風のほうが危険ですね。
―弓弦羽神社といえば、フィギュアスケートの羽生結弦選手ゆかりの神社ということでも有名です。全国から羽生選手のファンもたくさん参拝しにいらしていますね。絵馬も羽生選手のファンと思しき方のものがたくさん奉納されています。
羽生選手がジュニア時代から、近所にお住いの羽生選手ファンの方がこちらにお見えになって、当社のお守りを羽生選手に送っておられていました。ソチ五輪の前だったでしょうか、女子サッカーのINACの澤穂希さんたちが必勝祈願で当社に来られた時に、その取材に来たマスコミが当社のことを取り上げるようになって、瞬く間に羽生選手の話が有名になりました。平昌五輪の時にはソチ五輪の時を超えるマスコミが取材にきましたね。
嵐神社ってご存知ですか?ジャニーズのグループ「嵐」のファンの方が多く参拝されています。神戸市中央区に二宮神社という神社がありますよね。そちらには二宮和也さんのファン、滋賀県の大野神社、尼崎の桜井神社にも大野智さんや桜井翔さんのファンが訪れているようです。
ソチ五輪の時は羽生選手の試合中継を見ていましたけれど、平昌五輪の時は業務中でしたし、怖いから中継は見ませんでした。(笑)でも、境内におられる参拝客の方がスマホで試合をご覧になっていて、試合結果を教えてくださいました。
-さきほどから、団体さんなのでしょうか、たくさんの参拝客が入ってこられていますね。
羽生選手の影響もあって、4月頃から観光バスで全国各地から団体の参拝客がいらっしゃるようになりました。
神戸高校OBOGとはつながりますね
―宮司さんのお仕事以外にも、教誨師をされておられますね。
現在私は、弓弦羽神社宮司としての仕事の傍ら、神社本庁教誨師として、神戸拘置所に月に1度行っています。
教誨師は、簡単に言えば拘置所などの更生施設に行って受刑者に宗教的な講話をしたり、相談を受けたり、宗教的な行事を執り行ったりします。受刑者の家族の法事を頼まれることもあります。そういう関わりを通じて受刑者の更生を促すことにもつながります。
兵庫県は少し特殊で、拘置所や刑務所などに赴く教誨師は兵庫県宗教連盟というところが最終的に任命します。私もそこから任命されて、もうかれこれ10年ほど行っています。
―神戸高校OBの方と、お仕事の上でつながりがあるということはありますか。
教誨師のお仕事で一緒になる王子公園の金剛福寺の住職、高見寛信さんは神戸高校の同期です。
また、阪神大震災から1年経った1996年1月17日に、弓弦羽神社で環境芸術家の八木マリヨさんと鎮魂のイベントをしました。八木さんは18回生です。「縄」「ファイバーアート」で有名な八木さんが「人を繋ぐ」という気持ちを込めて作ってくださった10メートルの大きな縄を立てて、神主30人くらいが祈祷して、最後に鎮魂で燃やしました。筑紫哲也さんもいらっしゃっておられましたよ。
行きたい大学を受験するチャンスを1度だけもらいました
―神戸高校時代の澤田さんはどのような高校生でしたか。
あまり大きな声では言えないですね、どちらかという悪かったですね。(笑)
当時はボーリングが流行していて、朝早くからボーリング場が開いていたし朝は安かったのでボーリングに行ってから登校したこともありました。
高校3年生の4月に、担任の先生に「君は遅刻が多すぎる。正直にカウントしていたら卒業できなくなってしまうから遅刻はつけないことにする」と言われました。
朝、阪急御影駅から六甲駅までの電車の中、神戸高校生同士アイコンタクトをするのです。六甲駅についたら電車を降りてタクシー乗り場にダッシュ。当時はカナディアン・アカデミーがこちらにありましたし、松蔭女子の高校や大学もありましたから、朝はタクシー乗り場が争奪戦みたいになっていました。カナディアンの生徒は、日本語もわかるはずなのに英語でまくしたてて迫力がありましたね。いつも負けて次のタクシーを待つことになるのは神戸高校生でした。(笑)
もちろんタクシー通学は許可されていませんでしたから、4人ぐらいで相乗りして、剣道場の裏でタクシーを降りて高校まで上がっていました。
私たちの頃は、摩耶山の天上寺の境内に「山の家」があって、夏休みになると、クラス単位で1泊するというようなことをしていました。当然、部屋は男女分かれているわけですけれども、女子の部屋で話をしているのを見つかって叱られたこともありましたね。(笑)
今だったらほとんど「ダメ」なことをしていた高校生活でしたけれど、先生たちが厳しかったという印象は不思議とありませんね。
部活は剣道部に所属していました。ですから今は剣道部OB会である剣友会にも入っていて、剣友会の会費も納めていますけれど、それとは別に同期だけで剣“遊”会なるものを作って、年に一度集まっています。
―神戸高校卒業後について教えていただけますか。
最終的には父のあと、この神社を継いでいかなければならないとわかっていたわけで、そこから逃げる根性もありませんでしたから、そのかわり「若い時は好きなことをさせてほしい」と父に頼みました。父も「行きたい大学を受験するチャンスを1度だけやる。落ちたら神主の学校に行きなさい」と言ってくれたので、帆船に乗りたかったこともあり神戸商船大を受験し、進学しました。大学生の時に、夏休みに東京の國學院で、神主の資格を取りました。神戸商船大学は今は神戸大学海事科学部になっています。
ーということは、大学卒業後は帆船に乗務されていたのですか?
いえ、大学卒業後は港湾関係の会社でサラリーマンを15年ほどやりました。
ー神社とは関係のない世界でサラリーマンをされたご経験が、今のお仕事で活きていると感じられるときはありますか。
神社界って特殊な世界ですからね。
私が進学した神戸商船大学も特殊な大学でした。
小学校、中学校、高校、大学・・と、家庭環境や能力など大差ない者同士が集まっている場所だったのに対して、社会に出てからはいろいろな人がいると知りました。
その点で、サラリーマンとして働いていた経験は今も活きていると思っています。
10月12日に「能」の舞台をやります
―今この弓弦羽神社で力を入れて取り組まれていることはありますか。
「地域力」の中心、核となれるのが神社だと思っています。地域の方の心の拠り所、何かあるときに集まれる場であれたらなと考えています。神社でしかできないようなことをできる限りやっていきたいです。
その最たるものはおまつりですね。毎年4月に「花びらまつり」に境内を使ってもらっていますし、だんじりもね。だんじりに参加してくれる若い皆さんは、神社の行事にもいろいろ協力してくれますよ。
もう10年以上になりますか、子ども茶道教室も毎年6月から秋まで8回コースで小学生、中学生対象に当社でやっています。もともとは伝統文化の継承ということで行政からの助成を受けて始めたことでしたが、5年で助成が打ち切られたあとは、自主運営で継続しています。以前は夏休みに子ども能楽教室、薪能教室もやっていました。
ボーイスカウトも私の父の時代からですからかれこれ40年ほど、こちらの神社を拠点としています。
トライやるウィークでは御影中学から巫女さんの体験で毎年4~5人来ています。
また、今年10月12日には新作の「能」の舞台をこの弓弦羽神社でやります。
本格的なプロの方が演じます。能の形式をとった、新しい「発信」です。
来年には当社が社殿を造営し遷座して1170年を迎えます。あちこち傷んでいるので修繕が必要で、その寄進を募っているところなのですが、いい機会なので文化的なこともしようかな、と思ったのがきっかけです。
来年の修造後、再来年にもう一度能をやりたいなと思っています。今年の秋の上演は、神道の大祓詞でお祓いをし、再来年の上演は、神主だけでなくお坊さんも一緒に、つまり大祓詞だけではなく般若心経もあげるという、コラボレーションをここ弓弦羽神社でやります。これも先ほどお話した、高校同期の高見君のご縁で、教誨師をしている須磨寺の住職さんとお話したことで決まりました。「大丈夫か?」と聞かれましたけれど、「うん、大丈夫」と答えました。(笑)
―どんどん新しいことに取り組まれているのですね。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たると言いますからね。
何もしなければ何も変わりませんから。あまりにも本筋から外れすぎるのはいけないと思いますが。何をやったって、「何をやっているんだ」という人もいれば「面白いね、いいじゃない」という人もいるものです。
批判もいっぱいありますよ。「昔の静かな弓弦羽神社の方がよかったのに」、「たくさん人が来るのが必ずしも良いとは限らないでしょう」とかね。年代は関係ないです。一方で「神社が活気づくのはいいことですね」と仰る方もいます。けれども批判を恐れていては何もできませんから。
「神主さんは全部お見通し」!
―宮司としてたくさんの人と接しておられる澤田さん。最近お感じのことはありますか。
親御さんの「教育」については思うところがあります。
神社だけの話ではないですけれども。
たとえば境内で禁止していることをやっている子どもを見ると「そんなことをしてはいけないよ」と注意しますよね。子どもが悪いことをするのは仕方ない面もありますから、その注意は親御さんに対してのものです。けれどもそれを受けて親御さんが「神主さんがそう言っているからやめなさい」と子どもに注意することが散見されます。
なぜダメなのかという?なぜ禁止されているのか?という本質の部分を考えていない親御さんが多いです。
看板に「〇〇しないでください」って書いているのにその横で平気でそれを無視するようなことをしていて、私が注意すると「神主さんが言っているからやめなさい」、「怒られるからやめなさい」って言うのはおかしいでしょう?
とはいえ、私が親御さんたちを教育していくことはできないですから、そういう面で教育業界の方に期待しています。
もうひとつは、神社界全体でみると「後継者の育成」や「神社の維持」が大きな課題だと感じています。
昨今、日本では地域力が落ちてきていますからね。幸い当社では、現在生田神社で修行中の私の息子がおりますので、今のところ心配はないのですが。
―後輩にあたる現役の神戸高校生たちに伝えたいことはありますか。
自分で言うのも変ですが、「神主さんはお見通し」です。
長い目でみたときに、やるべきことをきちんとやっていれば、結果はついてきますよ。
ーありがとうございました!仏教と神道がコラボした「能」の実現が今からとても楽しみです。これからの益々のご活躍をお祈りしております。